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広島高等裁判所岡山支部 昭和50年(ラ)9号 決定

抗告人 大川健(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は「原審判を取り消し、抗告人が母大川正子、出生年月日昭和二二年六月二一日として本籍岡山市○町○丁目○番地に就籍することを許可する。」旨の裁判を求めるというにあり、その理由は別紙抗告理由記載のとおりである。

二  よつて検討するに、本件記録中の各証拠資料によれば、原審のなした事実の認定はいずれも正当としてこれを是認することができ、その認定した事実関係にもとづく法令の適用判断もまた正当である。

抗告人は、大川正子と呉炳との婚姻認定の資料とされた結婚証書には公的機関による認証がないこと、中華民国軍人は外国人女性と自由に結婚することができなかつたことなどを挙げて、右結婚証書の真ぴよう性を否定するけれども、右結婚証書はその方式及び趣旨並びに大川正子の昭和五〇年四月一四日付封書及び添付の呉炳の封書をあわせ考えると、その成立及び内容においていずれも真正なものと認めることができ、抗告人のいうように右証書に公的機関による認証がない等の事由をもつてしても右認定を動かすことはできない。そして右結婚証書によれば、呉炳と大川正子との婚姻は、公開の儀式及び二人以上の証人を要するとの中華民国民法九八二条所定の方式を具備した有効なものであつたことが認められる。なお右婚姻につき中華民国戸籍法にもとづく結婚の登記がなされた形跡がないことは抗告人主張のとおりであるが、中華民国民法においては右登記は婚姻成立の要件とされていないのであるから、右登記の欠缺によつて右婚姻の効力を否定することはできない。また当時大川正子が日本の本籍地所轄官庁に対して婚姻の届出をしていないとしても、原判示のとおり婚姻の方式は挙行地の法律によるべきものであるから、これまた前記婚姻の効力を左右するものではない。

上述のとおり呉炳と大川正子との婚姻が昭和二一年三月一六日有効に成立したものである以上、同二三年五月五日の岡山市長に対する婚姻の届出によつて始めて前記両名の婚姻が成立したとの抗告人の主張は到底採用できない。(右届出が報告的届出に当るものであることは原判示のとおりである。)

次に国籍の得喪の点につき、抗告人は、大川正子が中華民国国籍法施行条例にもとづく手続をしていないこと、抗告人の出生届が中華民国においてなされていないことを指摘するけれども、同国国籍法によればそれらはいずれも国籍取得の要件に当らないこれが明らかであり、この点に関する原審の判断を左右するに足りない。

その他記録を調べても、原審判を取り消すべき違法不当の点は見当らない。

三  よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 山下進 篠森真之)

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